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豊かな暮らしをつくる話。 ──番外編「MUQU運営・富士建設株式会社 加納優希へのインタビュー」

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MUQUの運営会社である富士建設の理念は「すべての人に、豊かな暮らしを」。そのための手段のひとつとして、無垢材を使った心地よい住空間を、多くの人に手の届くリーズナブルな賃料で提供したい──それがMUQUのやろうとしていることです。

なにをもって「豊かな暮らし」とするのかは、人によって違います。いってしまえば、人の数だけ「豊かな暮らし」がある。そんな時代だからこそ、みなさんの「豊かな暮らし」をサポートする仕事はむずかしくもやりがいのあることだと私たちは考えています。今後、MUQUを本格的に事業展開していくにあたり、諸先輩方の知恵を拝借できれば。そんな思いで、シリーズ「豊かな暮らしをつくる話。」として、暮らしに特化した事業を手がける企業に話をうかがうインタビューシリーズを始めます。

そのプロローグとして、初回に登場するのは富士建設の代表取締役社長、加納優希。MUQUのスタッフも詳しくは知らなかった経営者としての葛藤やMUQUの理念、将来の目標について、あらためて聞きました。

父親の死と、娘の選択

富士建設の設立は1954年1月。土木・建築工事を専業にする会社が始まりです。時代は高度成長期の真っ只中。高い建設需要に支えられて事業は軌道に乗り、その後のバブル期を通じて大きなものから小さなものまでさまざまな構造物を手がけるようになります。加納が会社に関わるようになったのは、父親に声をかけられたことがきっかけでした。

「大学時代に富士建設でアルバイトしていたのですが、継ぎたいと思ったことはありませんでした。だけど、就職活動を始めた頃、父に『会社の経理を手伝ってほしい』と頼まれたんです。真意はよくわかりませんでしたが、たぶん身内の人間を近くに置きたかったのでしょうね」

そうして会社に出入りするようになったものの、事業に参画するというよりは、父親の手伝い。あくまでも一時的なことで、自分の人生は別にあると思っていたのだとか。しかし、数年後に父親を病気で亡くしたことで、加納は選択を迫られることになります。

「じつは、父親には『自分にもしものことがあったときは、会社を清算しなさい』と言われていました。子どもに会社を継がせる気はないと。父の言葉にしたがうなら会社を清算すべき。けれど、本当にそれでいいのか。ちょっと感情的になって、考え込んでしまったんです」

自分には、ワンマンで会社を率いてきた父親のような豪腕はない。会社の事業にそれほど魅力を感じているわけでもない。でも、会社にはこれまで組織のために働いてくれたスタッフたちがいる。なのに、家の都合で会社を解散していいのだろうか──。悩みに悩んだ結果、出した結論は「自分がなんとかするしかない」でした。

建設会社だからできること

父親が遺したのは、会社の核となる建設事業と、会社が所有する数件のビル。建設事業部は古くからのスタッフが引き続き事業を支えてくれましたが、不動産のリーシングなどを管理していた責任者が辞めてしまいます。そのため、加納は代表に就任するやいなや、自ら不動産のリーシングを担当することに。いまの不動産事業の前身ですが、当時は「事業」と呼ぶほどでもない、文字どおり「リーシング担当」でした。

「父親にとって、不動産の運営管理は“副業”のような感覚。『物件をもっていれば入居者は勝手についてくれる』というノリで、ほとんど放ったらかしに近い状態でした。テナントビルも住居用マンションも、空き部屋出れば不動産流通機構が運営するコンピューターネットワークシステム『レインズ』に上げて問い合わせがくるのを待つだけ。それがリーシング担当のおもな業務だったんです」

しかし、加納が不動産のリーシング担当になったのは、リーマンショック後の不況が尾を引いていた時期。従来のやり方では新しい入居者が思うようにつかず、テナントビルにも住居用マンションにも、空き部屋が目立つようになっていました。なんらかの手を打たなければならないのはわかっているけれど、なにをしていいのかわからない。そんなある日、外部からヒントがもたらされます。

「テナントビルの入居テナントさんが店舗デザインやオフィスデザインを手がけていたので、いろいろな事例を見せてもらったんです。なかにはすごくおしゃれなショップもありましたが、たとえばオフィスとして使われていた部屋を元の状態に戻す『原状回復工事』をする際、ショップふうのちょっと素敵な壁紙、ちょっと素敵な床材を使っても、コストはほとんど変わらないと教えてもらって。当然のことですが、だれだって少しでも心地良い空間で仕事したいはずですよね」

試さない手はないと、自社で管理するテナントビルの空き部屋を現状回復する際、それまでの“THE・オフィス空間”ではなく、少しだけ内装のデザインに工夫を加えてみることに。すると、あきらかに内見数が増え、成約率が高まったのだとか。想像した以上の反響でした。

「これがデザインの力かと実感するとともに、住居用のマンションにも応用できることに気づいたんです。住居だって、見た目がおしゃれなほうが住む人はうれしいはず。だけど、住空間となると、見た目だけでは足りません。人が1日の大半を過ごす空間ですから、なによりも大切なのは住み心地です。住居空間のなかで、“心地良さ”と“見た目”をいちばん大きく左右するものはなんだろう。そう考えて、思い至ったのが“床材”でした。床材は視界に入る面積が広いのはもちろん、直接肌に触れる機会がもっとも多いパーツでもあります」

そこで目をつけたのが「無垢材」でした。自社で所有する住居用マンションに出た空室を「原状回復」する際、床材を肌触りの良い無垢材にする。同時に、間取りもターゲットのライフスタイルに合わせたものに一新する。無垢材の床は一般的な合板フローリングに比べて割高なものの、富士建設にはせっかく建設部門があるのだから、外注している改修の施工管理を自社でやれば、コストはぐっと抑えられるはず──それまでまったく関わりのなかった建設事業と不動産事業につながりが生まれた瞬間でした。

左:リノベーション前 右:リノベーション後

すべての人に、豊かな暮らしを

そのようにして立ちあがったのが、リノベーションブランド「MUQU」です。「MUQU」の部屋の最大のポイントは、もちろん無垢材の床。富士建設の緻密な施工管理のもと、熟練の職人さんが手作業で1枚ずつ床材をはめていきます。住居らしからぬ薄さのクロスもポイントのひとつ。全体的にデザイン性は重視しながらも、シンプルであることにこだわりました。

「昨今、リノベーションをウリにした物件は世の中にどんどん増えていますが、なかには空間デザインが行き過ぎて、住みづらそうだったり、住む人を選びそうな部屋も散見されます。けれどMUQUは、テイストの押しつけのようなことはしたくない。もっとも優先するのは住み心地です。私たちは空間の心地よさを約束するので、あとは住む人の好みで自分なりの“豊かな暮らし”を実現するための容れ物にしていただければ」

無垢材を使った心地よい住空間を、リーズナブルな賃料で。手始めに、自社が所有する大阪・江戸堀のマンションの部屋を少しずつ「MUQU」に生まれ変わらせているほか、2018年には西宮・苦楽園のマンションを1棟買い、ここでも「MUQU」を広げています。おかげさまで、現在、江戸堀と苦楽園ともに、MUQUの部屋は満室。では、次なる展開は……?

「MUQUをどんどん広げていきたいところですが、自社物件だけでやっていくには数に限界があります。次々と新しいマンションを買うわけにもいかないので。そこで、いま考えているのが、MUQUを施工管理込みのパッケージにして売ること。管理会社さんや物件オーナーさんへ向けたBtoBモデル、住民の方に直接利用していただけるBtoCモデルの両面で、いまプランを練っているところです」

そんな加納社長、最終的にめざしているものはなんなのでしょうか。

「いまは不動産事業と建設事業の力を合わせてMUQUを展開することに注力していますが、10年後も同じ事業をやっているかというと、それはわかりません。MUQUはあくまでも『すべての人に、豊かな暮らしを』という理念を具現化するための手段なので、その理念さえブレなければ、不動産や建設事業だけにこだわる必要はないと思っているんです。

もちろん、理念だけで会社経営はやっていけません。そのあたりのことは父親にさんざん言われましたし、『すべての人に、豊かな暮らしを』などと言いつつ、事業が利益を上げなければ、自社のスタッフすら幸せにできないのですから。ただし、理念なき経営では、会社はいつか必ず立ち行かなくなる。理念と利益を両輪に、社内外の人たちを巻き込みながら、やはり当面は着実にMUQUを広げていきたいですね」

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